ちくま新書「コミュニテイを問いなおすーつながり・都市・日本社会の未来」広井良典著・2009・8刊

 いい著書と著者に出会う。
毎回のこのブログのテーマは、メルトダウンしつつある日本社会の真の原因は何か、と歴史を振り返りながら自問自答しながら、書いているが、本著には随処にうなずく面が述べられており頭の整理になった。

 「無縁社会」という言葉がはやっている。さびしい言葉である。
本書は「地縁社会」「血縁社会」「社縁社会」と「個人」がどう係わりを大切にし、造り替えながら 理想の日本社会の未来に近づけていくのかについて 何よりも、超長期的、多面的に宗教学者科学史家の見解を踏まえて述べているのは さすがに2009年大佛次郎論談賞受賞の著作と感服した。

 筆者が考えるに今日の社会のメルトダウン(著者は使っていない)の最大の原因は 本書によると社会を止揚していくべき原理原則(著者はこの原理原則を「普遍的価値原理」と述べている。)が現在の社会は空白状況にあると述べている。
 この部分について本書を概括していうと 明治初期には廃仏思想によりそれまでの仏教、儒教を捨象して天皇中心のナショナリズムに置換え、これを普遍的価値原理とした。第2次大戦後は天皇中心のナショナリズムの否定により一時空白時代があったがその後「経済成長」が絶対価値という目標になった。この経済成長時代は国民は農村から都市へ大移動を行いつつ都市の中に「カイシャ」と「核家族」という感情・情緒的・非言語的な「農村型コミュニテイ」という「ムラ社会」を作った。内向きの社会でもある。この「ムラ社会」は息苦しい同調圧力の一方、集団外に対しては無関心が日常化した社会である。2005年OECD報告書では先進諸国20カ国中社会的孤立度の状況は最高、つまり家族以外の者との交流やつながりが一番日本は低いという。驚いた。しかし成長が終り パイの拡大ない成熟した社会では「カイシャ」は社員を守れなくなり、これまでの福利厚生の厚いセーフテイネットは崩壊 会社も個人も大きく流動 多様化する社会に投げ出された。
 著者はこれからのコミュニテイは、異なる集団間の異質な結びつき、人と人とが独立しながら規範、ルールによってつながる「都市型コミュニテイ」にシフトし そのあり方が課題となり、ある意味で永遠の課題に直面していると述べている。さらに今後の少子高齢化社会、ケア問題を考え都市政策 都市計画の重要性に言及し、ここに大陸ヨーロッパ、北欧の都市政策、福祉政策を学ぶべきと提言している。 この中で印象に残った点は、格差社会に機会の平等を取り戻すため 雇用、教育をはじめとする「人生前半の社会保障」が必要であり、(筆者は20代・30代の若い人たち社会保障が必要という現実に驚いているが)、又、住宅問題では、大陸ヨーロッパ、北欧にみられる民間に任せない公的住宅の充実などを提言している。

 そしてこれからのコミュニテイの「遠い未来の普遍的な価値原則はどういうものか?」大変哲学的になるが 「地球の有限性」と「仏教・儒教キリスト教イスラム教の更に上に立つ包含した思想」を重要な要素として組み込んだ「地球倫理」が思想として立ち上がるのではと述べている。この辺はやや哲学的で面白いので本書の一読をお勧めしたい。 

無縁社会」にならないように、孤立化を深める個人が、独立を保ちながらつながることが出来るコミュニテイをどう造っていくか。

 国が衰退するときそれまでの長い繁栄と成功の時期に支配地位を保ってきたイデオロギーや価値観に対する人々の態度が、表面上はともかく 底の方で劇的変化を始めている場合が多い、と以前読んだ著書にあった。「今日の日本」が改革もなく今後も続くとした場合、自分の子供、孫がグローバルな人生を築き始め、「日本か 大陸ヨーロッパか北欧かのいずれかに定住したい」と選択を迫られた場合 本書の読者はどうアドバイスするだろうか?