小説 山崎豊子「運命の人」(続)

前回のブログに引き続き「運命の人」を書く。

「昭和47年(1972)の沖縄返還に向けた日米政府間交渉で密約がかわされたこと」を当時の毎日新聞記者が外務省公電を入手しスクープしたが、国はこの記者「等」を国家公務員法違反に問う一方、「密約」の存在を否定し続けている事件を題材にした小説である。

 その「密約」の存在が約30年後の2000年と2002年米国立公文書館から公開された資料で「交渉の内幕」が明らかになりつつある。
当時裁判で「密約」の存在を否定した当時の局長が現在ではその存在を肯定している。小説はこの辺のくだりまでで4巻を終える。

筆者が書くのはここからである。

事件は「国民を欺いて密約を結んだ当事の政治と国家機密を知る権利の戦いが高い次元で展開が進むと思いきや 取材方法の倫理面の問題にすりかえられた展開になった。」が、働き盛りの40歳代で人生につまずいた男がその後どう生きたか。 山崎豊子に期待して読む。
 家庭の維持か 崩壊か? 子供の教育は? 情報提供者の人生の暗転とその後の人生は?小説なのでどこまでが事実か いろいろ判断があるが、実家の青果会社の役員など40代 50代過ごした後に 「無為に過ごしていればもっと堕落した惨めな人生しかないだろう」と文筆に関連した人生を送ることに後になって気がつく。
 現役時代 「トップ記事」を書く実力ある敏腕記者として活躍しただけにもったいない気がしたが この記者は70歳を超えた年齢で国に損害賠償と謝罪を求めた民事訴訟を起す。晩年になり何か 真実を求める「力」が沸いてきたような観がある。声援をおくりたい気持ちになる。

 2007年3月東京地裁の判決あり。「20年の除斥期間」を理由に請求棄却し「密約」の存在までは判断しなかった。不誠実な国の姿勢に 朝日新聞は「真相に目をつぶる判決」(2007・3・29)と社説にある。

 この裁判 その後最高裁で2008・9実質審査に入らぬまま、一審・二審と同様上告棄却になった。支援支持の有識者弁護団は「不開示処分取消しを求める訴訟」を地裁に提起し更なる訴訟に駒を進めている。来月12月には当時の交渉責任者の元アメリカ局長の「情報公開訴訟」での証人出廷が予定されている。30年余りの歳月が続いているこの事件の行き着く先の結論までいましばらく付き合わねばならない。

 新聞記者あるいは新聞社にとっては芸能人の覚醒剤事件の過剰報道や離婚訴訟などの事件報道などと比較し より重要な事件と考えるが記事としては忘却の彼方のようだ。以前の報道で元記者は「生き恥さらしても政府と刺し違える。」と語っている。(朝日新聞・2006・8・5「逆風満帆」元毎日新聞記者西山太吉

 現在 沖縄「普天間の移設先見直し問題」が民主党新政権で難しい問題になっている。「運命の人」は第4巻を読むと現時点での日米地位協定の現状 基地周辺の犯罪の現実など叙述が生生しい。30数年前の問題でなく現在抱えている問題だと痛切に思う。

山崎豊子は小説を通じ元記者西山(本文では弓成)に語らせている。

「沖縄を知れば知るほど この国の歪みが見えてくる。それに本土の国民が気づき 声を上げねばならない。 書く時間はそれほど長く残っていないが 遅くない」(本文)と。