光文社 「世界がドルを棄てた日」 田中 宇著(2009.1.30刊) を読む

 著者は繊維メーカーに1年勤務の後 共同通信社その後マイクロソフト社を経て個人で国際ニュースの解説記事を配信。その配信者数20万人。夫人との共著「ハーバードで語られる世界戦略」が読書での著者との初めての出会いである。上杉隆と共に関心を持っているジャーナリストである。

 「本書」を読んで昔、強い印象を持ち もう鬼籍に入り過去の人かと考えていた「人名」を見つけた。今度の総理の訪米時 昼食相手の一人とWEBサイトが名前を挙げていた。その名前は「ズビグニュー・ブレジンスキー」。日本が高度成長にさしかかり注目されていた頃の20代後半のとき読んだ本「ひよわな花・日本」(サイマル出版会・1972)に「日本は国際政治に関する気がないので永久にアメリカの属国であり続けるしかない」というような記述があり率直に言えば若い頃悪印象をもった「人名」であった。早速捨てないで持っていた同書を見つけ経歴を見た。1928年ポーランド生まれというから80歳。30歳で帰化、38才ジョンソン大統領時国務省政策立案会議メンバー 40歳ハンフリー外交政策選挙参謀とある。 元国務長官オルブライトは弟子にあたり現在は民主党シンクタンク・ブルッキング研究所の「顧問的立場の重鎮」のようである。オバマの顧問とWEBサイトにある。

 この人が「これまで500年世界の中心は太西洋諸国だったが中国と日本の新たな台頭によってその状態は終わる」と「欧米の支配は終わり日中が世界を支配する」と予測した。(本書)

 昨年11月15日米国ワシントンDCで「G20サミット」の会議後の写真撮影で一列に並んだ米大統領の左右に中国首脳とブラジル大統領が並んだ写真が配信された。この「G20サミット」は「第2ブレトンウッズ会議」と別名がついたそうだが底流に「基軸通貨体制」の変動にかんする何らかの議論があったことは素人でも容易に察せられるが 世界の主導権は「G7]より「G20」の何カ国かに移りつつある印象を受けた写真だった。真偽は時が示すだろう。
 「本書」は「現在のドルが破綻しそうな状況に世界がどう対応しているか,又ドルが破綻したら世界の通貨体制はどう変わるか」を分析した本である。先の「500年続いた世界の中心は大西洋諸国だったが 次は・・・・?」とブレジンスキーの予想どうりにいくか。疑問、疑念を持ちながら読むと興味大である。

 「本書」によると国際通貨体制の構想は2つの方向で議論が進むという。1つは国連の目指すステイグリッツ主導の「5極体制」(複数基軸通貨による多極的国際通貨体制)ともう1つは単独世界共通通貨構想をつくり ドル本位制と同様裏で運営権を狙うイギリスの案。この間で5極がどう行動するのか、日本はどう動くのか。日々の新聞などの伝える情報をどう読むか興味大である。

 この英米の過去200年にわたる覇権をめぐる戦略が著者の独自の見識を踏まえ第3章でまとめてある。ここの部分は読み応えがある。もちろん著者があらかじめ断っているように「異論」ある人もいるだろう。しかし英米の金融財政・通貨戦略の近現代史を整理できる。

 浜田和幸教授の「ヘッジファンドー世紀末の妖怪」が10年前「文春新書」で出された。丁度アジア通貨危機・ロシア通貨危機の元凶としてヘッジファンドが猛威を奮った前後でありその本で危惧した「ヘッジファンド」は浜田教授が10年前に危惧した通りになりアメリカの金融システムの崩壊につながった。ロスチャイルド財閥に物心の支援を受けたといわれるジョージ・ソロスの生い立ち・行動まで追求したこの本「ヘッジファンド」は「行動の真の目的」に疑念が残ったものの「本書」による「2つの帝国」の説明を読むとうなずける。「本書」で語る米英におけるナシヨナリズムに根ざす「帝国の論理」とキャピタリズムに根ざす「資本の論理」について説明する著者の見方は興味深い。
 高度成長時は両方の相克は小さいが 国家が衰退すると見るやロスチャイルドなどの国際資本家は見限り逃げていく。三菱UFJや三井住友の資本家は余程のことがない限りこの2つの「論理」は常に「イコール」であろうが。
ここの部分はぜひ本書の一読を薦める。
こう書いている間にも「シテイグループ」が政府管理下に入った。

 又「本書」では以前取り上げた「榊原著書」に多いアジア通貨圏構想の経緯についてもまとめてあり整理ができる。不況下の投資の研究にも「金地金」を取り上げ有益な部分もある。

 最後に著者はアメリカ再生に立ち上がったオバマは就任前より失敗が運命づけられているとしてその政策の成功にあまり期待していない。

約20年前ウオールストリートを訪れた司馬遼太郎が「アメリカ素描」(1985)の中で門外漢という前提で「資本主義というのはモノを造ってそれをカネにするための制度であるのに農業や高度技術産業など一部を除いてモノを次第に造らなくなっているアメリカがカネという数値化されたものだけで将来それだけで儲けてゆくとなると滅びるのではないかという不安に襲われた。」と書いている。

 新自由主義の政策が中途半端な段階で終わりその結果格差社会を生み,派遣切りを生み、将来国の核となる若い人より仕事を奪い カネのみの追求が行われ 反省として労働法制の見直しや野放しのヘッジファンドに対する規制等がいわれている。

 各種のシンポジュームや講演会に参加しこのところ感じるのは新産業創生への官民の取組みが以前より熱意を感じ 若いベンチャー経営者の新製品への取り組みの支援に最近では民間よりむしろ官側が資金の提供機会を作っている日本は将来大きく「実」が期待できそうだが少し楽観的か?
 ブレジンスキーのいう「日本の政治的覚醒」は 示唆ある「言」だ。