幻冬舎 「ジャーナリズムの崩壊」 上杉 隆著

 血の気の多い多感な若い時 「ジャーナリスト」にあこがれた時代があった。「社会正義を目指し 社会不正義を糾す」。

年末の「派遣切り」.
あと何日かで新年 お正月を迎える直前に仕事を 住居を取り上げられた若い世代の人たち、しかもそれを実施したのは経済界の重鎮を出し 本来なら日本の全経営者に規範となるべき「企業の社会的倫理」を示すべき企業である。世界のグローバル競争に勝ち抜かねばならない命題はあるとしても「何かおかしい」と考えた人は筆者のみではないと思う。

 どの業界での仕事を問わず それらの「おかしさ」を取り上げ「その本質」を糾しているうちの1人がジャーナりスト上杉隆である。CS番組「ニュースの深層」でキャスターをやっている。40代初めのジャーナりスト。

 短いニューヨークタイムズの記者の経験を通して日本の新聞記者と比較しているが日本の記者の仕事は「通信社」の仕事だと言う。「ワイヤーサービスメンタリテイ」速報性を最優先とするメデイア。早いほうがいいが特徴。
 これに反して「ニューヨークタイムズ」は「掲載するに値するすべてのニュースを」と標語にあるように 有益なニュースを吟味して記事にするのが新聞記者の仕事と言う。三権に対する監視、公権力に対する監視役がジャーナリズムと言い ジャーナリズムの仕事は究極的に権力監視であり現在を切り取る作業と言う。それによって同時代に生きる国民(読者・視聴者)に権力内部の不正 事実を知らしめることと言う。(本文)

 日本の記者はどうだろうか。ほど遠い理由として「馴れ合い」せざるを得ない「記者クラブ」の存在を本書で感じた。
 ジャーナリズムの世界にも「記者クラブ」と言う一種の新聞・メデイア業界の護送船団の世界が生きており そこでは国内大手新聞・メデイアに属する記者と比較し 外国人記者 およびフリーの記者の取材にとっては相当の厚い壁が存在して 外国特派員協会は情報を寡占する閉鎖的組織として30年間開放の抗議を行っていると言う。

 本書に述べる「記者クラブ」内の「仲間はずし」にならないための記者同士の緊張感のない取材活動 又取材先より「出入り禁止」にならないための取材活動の実態はうなずける部分がある。

 高い「志」を持って記者になったジャーナリスト達は「記者クラブ」と言うシステムに毒され徐々にその「志」を忘れてしまう。いつかはと思いながら結局社内の出世競争 自身の生活を考えそうした青いジャーナリズム論を敬遠する様になる。(本文)

 読者にとってどこかで管理されている情報を読むこと程ばかばかしく 愚かなことはない。あまり多くを知らないが上杉はじめ何人かが自らこの護送船団から飛び出てフリーで活躍しているジャーナリストに本物の見識なり ジャーナリストとしての器量の大きさを感ずる。筆者が刺激を受けるために読もうとする本はこれらの大組織から飛び出て仕事をやっている人の本が多い。

 「世襲政治家」が云々されている。ジャーナリズムの中核のあるメデイアも 政治家の紹介状や推薦状が入社当落決めるのは50年前と思いきや 目の前の状況で政治家との距離を知り 心の底より落胆したとある。

 時折「報道された記事」がその後関連して出版された著書と検証し1年か2年すると随分事実と違う報道がなされたことを後日発見することがある。その時は本当のストレートな情報は伝わってこなく正しい情報はあとで知ることになる。事実をストレートに国民に読者に伝えるのが 昨今の内部からの告発なり 自身の過酷な体験に裏打ちされたしかも 読者の評価を得た「メモワール文学」と考えていたが 上杉著者はこれをジャーナリズムの仕事として評価されることはないとし、自身の体験を書く「メモワール文学」を高く評価する昨今の傾向はジャーナリズムの自殺行為ともいうべきと 佐藤優(後述) 田中森一(代表的著書「反転・闇社会の守護神とよばれて・幻冬舎山本譲司など否定している。(p199)この部分は筆者は違う意見を持っているし、筆者の大先輩は「本人が永年書いた日記」にこそ「本物の真実」があるという。筆者もこの意見には賛成である。

 筆者は一昨年以来外務省の元主任分析官の「佐藤優」の著書に関心を持ちフォーローしている。この事件の勃発した時なにやら「おかしい」と考え 初めて著書「国家の罠」が出版された時 丸の内の丸善本店に赴いた。最近は時期によっては佐藤優コーナーがある位メインだが最初は丸善の本の列の一番端に置かれており ようやく探し出したのを思い出す。その後同氏はたて続けに「国家の崩壊」「国家の自縛」「自壊する帝国」などを矢継ぎ早に出し 地政学を含むその独自の分析で活躍している。

 大組織にいる新聞記者の記事よりむしろこのような「メモワール文学」と言われる人の著書の中に あるいは「ふるきを尋ね,そこから現代社会に暗示を与える著書」の中に「正義」を追求するジャーナリズムの未来があるような気がするが。
 ニューヨークタイムズの標語「All the News That's Fit to Print」(掲載するに値するすべてのニュースを)を心に留め毎朝の新聞の見出しがこれに値するか 期待していこう。