東洋経済新報社「強い円は日本の国益」榊原英資著

 このところ榊原英資著書に「はまって」いる。初めて著者の本を読んだのは7年前「インドIT革命の驚異」.
 緻密なデータと アジア全体に対する取組に対し 印象強く感じた。近著は2008年6月に出た藤原書店「大転換ーパラダイムシフト」。2005年の「経済の世界勢力図」。2007年「日本は没落する」など著書は多すぎるほど多い。経済評論に限定せず文明論が入るのがいい。
 小生の読書のテーマは 「日本が何故今日のような国家になったのか」を中心においている。
 戦争で否定された戦前の先人の中で 中央アジア・南アジアにウェイトをおいて思索・行動した例えば大川周明・(あまり一般的に好まれないかもしれないが)などがいる。これら 先人・先輩の思想と70〜80年たった現在を比較し考察する意味で「アジア通貨圏」構想を現役時代に考えた榊原著は参考になる本である。
 「はまった」もう1つの理由は 昨年5月に水野和夫の書いた「何故人々はグローバル経済の本質を見誤るか」を読み この本に大いにうなずいたのを覚えたが その後 榊原著は「何故人々は・・」を丁寧にいろいろと取り上げて評価・解説している。

 「強い円は・・」の内容は「円高が日本経済にとり国益」といういわばマスコミなどがいう常識と正反対の考えである。現在は価格革命が進行している。量産によるハイテク商品のコモデテイ化(陳腐化)により価格が下落する。 一方資源価格が上がることこそあれ下がることはない。現代社会は約60億の人口のうち半数の30億人はBRIKSの人々である。過去のように経済成長が進めば購買力は劇的に上昇する。資源は不足し食料などの価格は上昇する。ここの部分は「水野著」が16世紀の地中海地域の人口が倍増したことを取り上げ 人口増に対する相対的稀少性により小麦やバター 鶏卵等が4倍から6倍になったを取り上げ今後の世界を予測している。

 日本は交易条件の悪化で海外に相当の資金が流出している。今後日本経済は資源を低いコストで調達したり 資源開発のコストを引き下げねばならない。すなわち「円高政策」が日本の国益である。価格革命の進捗している今日 いわば「売るシステムより仕入システム」を作らねばならないと提唱している。資源開発等を行なう商社は円高は歓迎するだろう。弱電。自動車など輸出産業は打撃である。又国内の投資家向けの外国債券など円安前提の金融商品は180度思考を転換せねばならない。
今日の実質実効為替レートは 1984年のプラザ合意時の240円のレベルであると為替の専門家としての本人の見解も述べている。

 この本を読み「一瞬うなり・長い道のり」を考えた。
なぜか? 円高を頭の中で理解しても 身体では日本の経営者 国民はどの程度理解するのだろうか。
 歴史は繰り返す。80年前の大恐慌時 政友会(今で言う自民か)と民政党(今で言う民主か)の2大政党時 1929.10月民政党浜口雄幸ーー井上準之助ラインにおける金本位復帰政策で円高となり 国内は大不況になった歴史あり、1931年12月の政友会 の犬養ーー高橋是清ラインは政策180度転換し金輸出再禁止 赤字国債発行で大不況を脱出した。
 翌年32年1月に行なわれた解散・総選挙で政友会は圧勝した。自民・民主は同じパターンか。しかも榊原氏は「政権交代」で民主党に影響のあるブレーンである。

 資本主義の総本山アメリカ その心臓部の5大証券ー投資銀行の消滅あるいは半身不随は 水野著が「100年デフレ」の著書を含み10年前から予測したとおりになった。総選挙モード。「何が日本の国益か」について真剣に、まじめに 深く考え おかしくなった今の日本を先人に学び 正そう。次は「浅河貫一」を考えよう。