朝日新書「福島原発メルトダウン」広瀬隆著・2011・5刊

 現役時代の金融界よりコンサルタントという自由業に転進し いつの間にか今月末で丁度10年になる。
 先月5月コンサルとして関わった放射線機器関連会社の業務で福島に行って来た。
 東日本大震災より1年余り。復興は順調でない。津波被災された地域は、コンクリートできれいに護岸工事される一方、ガレキが山のように積み上げられているものの,片や原発事故の地域は線量のため一年たっても手付かずの状況でしかも、これから何十年も故郷に帰れぬ状況である。どう考えても後者ほど酷い事はない。 ここ関東でも福島原発4号機の再爆発、あるいは予想される大地震で茨城・東海原発事故が発生した場合は福島のケースになる、と考えている。
 どこが安全かと日本全国改めてチエックしてみると、日本全体が原発に取り囲まれていることの事実に仰天する。

 筆者の故郷にも目と鼻の先に原発あり、昨年3月の大地震には何とか持ちこたえたものの、1カ月後の4月7日の最大の余震で岩手、青森、山形、秋田の4県が全域停電になった時、外部電源3系統のうち2系統が停止、このうち1系統でかろうじて原子炉などの冷却を継続するという綱渡り的運転で助かったということを地元の報道はともかく「本書」を読み驚いた。

 全く不安な世の中である。

 福島原発事故以来、汚染源を上流とする河川汚染が宮城南部の阿武隈川、新潟に流れる阿賀野川で進んでいるとの特別番組がNHK・ETVで報道された。阿武隈川流域では地元で長年続けられた「あゆの漁」が禁止された。生態系の汚染を通じ将来の人間にどう影響を及ぼすか?福島で行われた「放射能除染技術展」では、汚染土、汚染水の廃棄物を出さない現地完結型の除染や、放射性物質除去の空気清浄器が紹介されていた。福島の若い家族から「子供が生まれる。屋内の放射能は○○ミリシーベルトですが、放射能専門の空気清浄器を使うと大丈夫ですか」という悲痛なメールが来る。団塊の世代で老い先短いから無関係といい、子供の世代の問題と片付ける訳には行かない。

 本書は「二酸化炭素温暖化説の崩壊」で温暖化説に異議を唱えたり、原発以外の電力で十分電力需要は賄えると主張し原発に一貫し反対している著者の本である。福島の真相、更には弱い地盤に建設進行の青森「六ヶ所再処理施設」の恐ろしさを詳細に書いている。
 原発関連で最近読了した鎌田慧の「原発列島をゆく」を読むと反対運動も各地で行われたが、2〜3の地域を除き推進派に押し切られた経緯が書かれている。福島も同様である。福島で反対運動した人たちはさぞかし無念だろう。その結果40年後地域全域が全滅し、先祖の墓参りにも行けない状況になった。地域によっては永久に。

 一貫して原発反対の立場をとり京都大学原子炉実験所助教で「原発のウソ」(2011・6・扶桑社)「原発はいらない」(2012・6・幻冬舎)を書いた小出裕章先生は目下講演で目一杯のようだ。又「原発の闇を暴く」(広瀬隆・明石昇二郎・2011・7・集英社)は原発を推進して来た政官産学のシンジケート構造や文化人を糾弾している。「原発国民投票」(今井一集英社)は原発賛成論者、反対論者のそれぞれの立場での意見を取上げている。

 「原発施設」は住民からは目に見えないところ、意見は「黙」の社会空気、「見て見ぬ空気」が今後も続くとしたら、福島原発事故の反省はなく、住民・国民は事実をしっかり見ていかねばならない。今度の事故で初めて国民は原子力に真剣に向き合う時代になった。首相官邸に毎週金曜日夕方再稼動反対のデモが増えている。(了)